白いところしか歩けない

今の私を過去の私がもし見たらよかったと思うだろうかうらやましいと思うだろうかそれとも絶望して死んでしまうのだろうか。

 

あなたはエリートだ、と言われてそうかもしれないと思った。だって私は中学生の時からずっとずっとエリートと呼ばれる人種になりたかったから、私を見下して蔑む大人を蹴散らしてやりたいと思っていたから、私は努力してきたから、できる限りの努力をして、ここまでやってきたのだから。

 

大人のことが嫌いだと思っていたら私はいつの間にか大人になっていた。

 

初めて男の人を怖いと思ったのは小学校2年生のころだった。我が家は共働きだったので、私が学童保育から帰ってきてから母が帰ってくるまでの2時間程度、一人で留守番をしていた。電話番もしていたし、インターホンが鳴れば出て、「父と母は今いません」という返答もしていたから、きっと変質者にとっては私は格好の餌食だったと思う。あの家、あの時間帯は小学生女児が一人だ、というのがあまりにもあからさまだったから。

ある日の夕方、一人で留守番していたらチャイムが鳴って、私はいつものように今父と母はいません、と言った。○○ちゃんに用事があるんだよ、とドアの向こうの人が言ったので、私は普通にドアを開けた。

目の前には人の好さそうな眼鏡の男の人が立っていて、その人は玄関のドアを閉めるとおおよそ普通の人であれば触らないようなところを執拗に触ってきた。小学2年生の私は、何をされているのかよくわからないけれど、何か良くないことをされているような気がしていて、とにかく怖くて動けないという状態に陥っていた。

その人は、気が済むと帰って行った。

 

その日から大人の男の人が怖くなった。親戚のおじさんのことも怖くなったし、スカートも履けなくなった。学校の先生のことも怖くて、男の人に親切にされると何かされるんじゃないかと思ってビクビクするようになった。男の人と話した日の夜は大体悪夢を見た。でも父だけは大丈夫だった。父だけは私の安心できる大人の男の人だった。父だけは大丈夫「だった」。暴力で心を壊されるまでは。

 

性的にも消費されて力でも勝てないのなら、私はもう偉くなるしかないと思った。舐められているからこういうことになるんだろうと思った。だから私は偉くなって、誰からも尊敬されるような人間になって、私を見下して蔑んできた人たちのことを蹴散らすしかないと思った。だから努力してきたつもりだ。誰にも舐められないように、言葉は尖らせて、お金を稼げるように、隙がないふりをして、つけ込まれないように、心は頑丈に閉ざして、閉ざして、閉ざして、ここまでやってきた。

 

今の私を過去の私がもし見たらよかったと思うだろうかうらやましいと思うだろうかそれとも絶望して死んでしまうのだろうか。

 

何が正解だったのか、よくわからない。