足を踏み外す

中学生のころ、ある日のこと、突然私は倒れた。

 

誰にも言っていないけれど、倒れたときのことはよく覚えている。倒れた後のこともよく覚えている。周りの人たちは私が急に倒れて気絶したと思っていたようだけれど、気絶なんかしていなくて、突然体から力が抜けて、何もできなくなってしまっただけだった。周りの音も聞こえていたし、理解することもできた。突然、自分の意志で体を動かしたり、喋ったりすることができなくなっただけだった。

 

ある意味病気だったのだと思う。

 

救急車で運ばれて、しばらくしたら治って、医師に怒られたことを覚えている。私じゃなくて、母が。医師は見抜いていたんじゃないだろうか。私の気絶が、単なる気絶じゃないことに。

 

いつも寝る前に必ず、このまま永遠に目が覚めませんように、と願っていた。今いる世界を見たり、何か意見を言ったり、それによって罵倒されたり殴られたりすることから逃げたくて、願わくば自分一人しかいない部屋の中で目をつぶって何もせず横たわってそのまま死にたかった。急に倒れたのは、多分それを体が実現しようとしたんだろう。

 

ある意味病気だった。

 

危ういところを歩いていて、少しでも気を抜くと足を踏み外して落ちるところまで落ちてしまいそうな、そういう気持ちでいつも生きていた。倒れたあの日は、踏み外してしまった日だったんだと思う。