悪い人間

私の心は暴力によって何度も何度も屈しました、私は身体のみならず心までも暴力に屈しました。あの時のことは忘れたくても忘れられません。あの日の季節や曜日や流れていたテレビ番組まで克明に覚えていて、あの日大切な人が流した涙の色もその人に対して私が何もできなかったことも全部全部鮮明に思い出せてしまう、今でもふとした瞬間にあの日のことがフラッシュバックして突然息ができなくなったり涙が止まらなくなったりして、私の罪はいつまでたっても消えることがないのだと思い知るんです。
 
あのときどうすればよかったのか、こうしていればよかったななぜそうしなかったのだろう、そんな後悔はどこまでも意味のないことで、自分のしてきたことしてこなかったことを悔やんだところで許されるわけもなく、卑怯ものである私は恐らく死ぬまで自分のこれまでを何度も振り返っては後悔し続けてそのくだらない生涯を終える、という罰を受けている途中なのだと信じていて、誰にも誰にも誰にも理解されないだろうから誰にも話さないけれど、私にとって私以外の全てが私を悲観させて後悔させる道具なのだとしか思えなくて、だから全てのものと一定の距離を保って、近寄らせないようにしてしまう、いくら相手が望んだとしても、私自身が望んだとしても、私はもうそういう生き方しか知らないから、私は心を担保に暴力から自分の命を守ったあの日から、そういう生き方しか出来ない事が決まったのだから。